37人が本棚に入れています
本棚に追加
思い出した。全部思い出した。頭の中から消し去ったはずの記憶が、鮮やかに頭の中に再生されていった。そうだ、私は知っていたんだ。繰り返される夫の浮気、私の名前を語っての千里の援助交際。許せない、そう思ったものの今の生活レベルを維持したくて、二人を責めるよりもなかったことにしたかった。知らなければ、忘れてしまえれば、記憶から消してしまえれば、きっと私は笑って今の生活を続けられるはず。私は今の私の生活を守るために、私の生活を脅かす記憶を消すことを選んだ。
そして高額を支払い、有名占い師から教えてもらった記憶を消し去る方法。
”大好きなものの生死の境目にある時の血液を含ませた紙で、細かく千切った消したい記憶に関わる人物の写った写真を包み、自身の近くに置いておく”
そのために大好きな愛犬ジュラを私が車で轢き、死ぬ直前のジュラの血を真っ白な封筒に染み込ませた。そして、夫、千里、私が三人写っている写真を細かく千切りその封筒にいれた。この異様な儀式のようなことを私がやったこと自体、記憶から消し去りたかったため、私も写っている写真にしたのだ。桐の箱に入れて、普段開けることのない食器棚の奥に隠した。
最初のコメントを投稿しよう!