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「この世で一番美しい布を織り上げることができたら、お前をここから出してやろう」
その一言があったきり、鼻先で扉を閉ざされた。
機織り機の前に腰を下ろし、しばしぼうっとしていたら、
きい、
と頭の遙か上の方で何かがきしむような、かすかな音がした。
見上げると、何か小さな赤い破片がひらひらと、膝の上に舞い落ちた。それは一枚の羽根で、紫がかった見事な赤い色をしていた。拾い上げると塔の中でもわずかな光を吸い込んで反射し、つやつやと瞬いた。私はそれを赤い糸と一緒に織った。
次の日の朝、石壁の隙間から陽光が差し込む頃、きい、と木戸が開く音がした。音もなく落ちてきた羽根を空中でつかむ。深い青色の羽根だった。私はそれを、青い糸と一緒に織った。
灰色、水色、橙色。
音がすると反射的に窓を見上げるも、いつも円錐形の天井にぽつんとついた窓の、木の戸がゆらゆらと揺れているだけだった。
羽根を落としてくるのだから、窓の外にいるのは小鳥かもしれない。私は心の中で訪問者を小鳥と呼ぶようになった。
きい、きい、と断続的に響くかすかな音がノックであり呼び鈴となった。訪問の際にはきまって小さな土産を伴う。
姿無き小鳥が届けてくれる羽根を、毎日同じ色の糸と織り込んだ。
たまに羽根ではなく、花や木の実、氷の欠片などが迷い込んでくることがあった。私はそれで季節を知った。
吐く息も凍りつきそうな寒い冬の朝、真っ白い羽根が落ちてきた。いつもの癖でわずかな陽光に照らして、ぎょっとする。薄暗闇でぼうと光るその羽根は、赤黒い何かで汚れていた。白い糸を探そうとした手を止めて、羽根と共に吹き込んできた氷の欠片でぬぐった。
少し前から塔の外ではたくさんの怒号や、堅い物同士がぶつかり合う鈍い音が飛び交っている。鉄の臭いや何かが焼けるような臭いが塔の空気にも混じり始めていた。
「おい、この塔は何だ」
塔の外でがなり声が聞こえた。
「魔法がかけられている。強い呪いだ」
「先ほど魔法使いを引っ捕らえたはずだ。連れてこい」
心臓が縮み上がった。ずうっと織り続けていた布は、もう少しで完成する。あと一つの色を足したら、それはこの世で一番美しい布になるだろう。
ほどなくしてがちゃがちゃと鉄と鉄がこすれ合うような不快な音が壁を通して伝わり、最後に、がつん、とひときわ強い音が響いた。それを境にいくつもの堅く冷たい足音や怒鳴り声が塔にこだまし、こちらに近づいてきた。
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