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私は両腕を広げ、扉の内側に背中を貼り付けた。扉がどん、と大きく揺れ、体が弾かれる。あわてて扉にしがみつくと、荒々しい声が響いた。
「開けろ、さもないとここを突き破るぞ」
私は恐ろしさで声も出なかった。すると、更に強い力で叩かれ、斧の刃先が扉の隙間から飛び出した。たまらず飛び退くと扉が開け放たれ、鎧を纏った兵士達がなだれ込んできた。
兵達の斧や剣がこちらに向かって振りかざされたとき、
きい、
と天井の窓が開く音が聞こえた。
無数の刃がこちらに向かって振り下ろされる。思わず目をつむる直前、天井から黄金の羽根がひらひらと回転して舞い落ちるのが見えた。
黄金色の羽根は、扉の外の雪と太陽の光を吸い込んで跳ね返し、部屋中を真昼の色に染め上げた。
光に目をつぶされた兵達のうめき声が響き渡る中、目を開くと、目の前に薄紅色の小鳥が羽ばたいている。床には完成した極彩色の布が広がり、それはマントのような形を成していた。
兵達の何人かは盾の隙間から、一人の女が見たこともない色の翼を生やした鳥に変わり、もう一羽の鳥と共に飛び去るのを見たという。
塔のてっぺんの、粗末な部屋の床に残っていたのは、古びた機織り機とわずかな糸くずだけだった。
リモート勤務の息抜きがてら、マグカップを持ってベランダに出た。うーん、と伸びをすると、デスクワークでがちがちに凝り固まった筋肉がほぐされて生き返るような心地になる。ふうと力を抜いたとき、すぐ傍で鳥の羽ばたきが聞こえ、羽根が足下に落ちてきた。紅葉(もみじ)は背をかがめて拾い上げ、くるくると回してみる。
「どうしたのそれ」
網戸の開く音に振り向くと、虹(こう)が立っていた。リモートで授業中のはずだが、ちょうど休憩時間に入ったらしい。
「なんか落ちてきた」
夕暮れにかざすと、かすかに七色の光沢が浮かぶ。
「不思議な色だね」
虹がつぶやく。確かに、珍しい色合いだ。同時にどこか懐かしいような、奇妙な感じがした。ぱっと見たところ赤みの強いピンク色だが、よくよく顔を近づけると青やオレンジなど様々な色が細かく散りばめられている。
あ、と虹が声を上げ、指さす方を見ると二羽の鳥が電線に留まっている。夕焼けとは逆光になっていて、黒いシルエットしか見えない。もしかするとこの羽根の持ち主かもしれない。
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