機織る王女と姿無き小鳥

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 むかしむかし、とある国にひとりの王女様がおりました。その王女様は王様の怒りを買い、罰として塔の一番上の部屋に閉じ込められ、来る日も来る日も機織りをしておりました。  今日も今日とて塔のてっぺんで機を織る。  厳格な国王である父が、魔法使いに命じて国の外れにある古びた塔に呪いをかけた。  この塔は人が入ることも出ることも許されない。  何故そんなことになったのかと言えば、この国の王女たる私が隣国の王に嫁ぐことを、求婚者本人と父の前で突っぱねたからだろう。面目をつぶされた彼らの怒りは凄まじく、かえって滑稽にさえ見えた。  何故、生まれてきたのだろう。  何故、生きているのだろう。  怒り狂った父に髪をつかまれ、応接室の中を引きずり回されながら考えていた。  その問いに対して、以前父がくれた答えは、「王国の安寧と繁栄のためだ」と言う。何をばかな、と心の中で肩をすくめたが、「左様ですか」とにっこりと微笑んで見せたのだから、もう少し褒められても良いと思う。  しかし、父よりも年老いた隣国の王へ嫁入りせよと命じられた折は、それを微笑んで聞き入れるわけにはいかなかった。  微笑むという行為には口を礼儀正しく閉じ、黙る必要がある。  黙ることは慎み受け入れること、肯定することに等しい。  王女は笑わずに、たった一言、こう告げた。 「国王陛下、どうかそれだけはお許しくださいませ」  その一言で、王女は国王と隣国の王の怒りを買った。  かくして私はここに閉じ込められ、暗い円錐型の石壁ばかりを眺めて暮らすこととなった。唯一、塔の一番上、とんがり屋根のてっぺんに、小さな小さな窓があった。薄い木戸の付いた、粗末な四角い穴だけがここと外をつないでいた。  私は毎日機を織る。  王室付きの魔法使いによって呪いをかけられる直前、父は、幾房かの糸と、機織り機を私によこした。
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