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1 切り捨て案件ですね
「はぁー……どう言ってあげようかなぁ……ちょっと……まあ、ね。うぅーん……なんか……うん、……君、違うんだよね」
「……」
「……返事は?」
「……はっ!? なんのお話ですか?」
私は彼の物静かな性格をとても好ましく感じていたのだけれど、この歯切れの悪さには、ほんの少し、苛々している。
「なにって、それは……ふっ」
いえいえ、笑われても。
「君、今の話でわからなかったのかい?」
「ええ、ごめんなさい」
「そんな……ふっ、まぁ、まぁまぁまぁ。いいだろう」
なにがよ。
「認めたくない気持ちも、よくわかるよ。僕だって、君を傷つけたくはなかった。だけどね、これじゃあお話にならない」
「今どういうお話をされていらっしゃるんです? 私が違うって、私、特になにも申し上げておりませんけれど。あなたがふふっと笑われて、悩まれて、そして」
「やめてくれ。鬱陶しい」
「……」
もちろんカチンときた。
けれどここは開かれた噴水広場で、私たちのほかに貴族とおぼしき小規模団体が散策やピクニックで楽しい時間を過ごしている。恥を晒すのも御免被るし、他の方々のお楽しみに水を差すのは不本意。
「そう、ごめんなさい。それで、結論を仰ってくださる?」
「君も……しつこいな。ふっ。そんなに僕と離れたくないんだねぇ……でもねぇ、君、違うんだ。なんか違うんだよ」
「私はフランシーヌ・エモニエ。シャサーヌ伯爵令嬢。もちろん本人です。そしてあなたの婚約者です」
「ふっ……またまた。冗談を言って人柄を見直してもらおうって考えかもしれないが、それは……うん、うんうん、ね」
私から言い出してほしいのか、それとも歯切れ悪い話し方が癖なのか。そのどちらだとしても、彼の人柄を見誤っていた事については反省しなくてはならない。
決断の時だ。
ディディエ伯爵令息アンリ・ヴァイヤン卿には将来性を見出せない。
彼との婚約は白紙にしよう。
「君と僕は今日以降、会う事はない」
「はぁ」
「ふっ。……おいおい、勘弁してくれよ。そんなに頭の鈍いほうだとは思わなかったよ。ああ、よかった。やはり僕の勘は正しいね。うんうん。ふっふっふ」
「……楽しいですか?」
「いや、不愉快だよ? 愚かな婚約者を持って」
「そう、ごめんなさい」
「まだ察する事ができない……くくくっ、そう。わかったわかった。うん、まぁ、ね。そう。ありがとう。君の気持ちだけはありがたく受け取るよ。でも、この話は無しだ」
「この話……」
深呼吸。
「婚約。破棄だよ」
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