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2 知らない人
前世???
「それは……どういう……っ!?」
「お待たせ、ヴェロニカ。そちらは?」
「!?」
パールが戻ってきた。
ほっとした。
いつもの笑顔で肩を抱き寄せてくれて、悪戯っぽい眼差しで目を覗き込んでくる。
「ああ、パール」
覆わず私も笑みが零れた。
彼がいれば私は無敵。
彼がいるから、この世界は素晴らし──
「パール!!」
「?」
呼び捨て?
私も驚いているけれど、夫も驚いている。
それでも動じているわけではなく、笑顔のまま問いかけた。
「失礼。どこかでお会いしましたかな?」
「ええ! やっとお会いできましたわ!!」
「……んん」
笑顔のまま言葉を失う夫パール。
高速瞬きでフレイヤを見つめる。
「御父上と、どこかで……」
「いいえ! 父は死にました」
え?
「そうでしたか。心よりお悔やみを……」
「そんな事より、パール! 私を思い出して!!」
「──」
パールが私と同じ境地に。
けれど、頼りになる夫は私の肩をグッと抱いて、ニコッと笑った。
「愉快なお嬢さんだ。ヴェロニカ、シベリウス伯爵夫人が例の件について4人で相談したいそうだよ。行こう。お待たせしては失礼だからね。そういうわけで、お嬢さん。また」
「……!」
笑顔で決別を告げた夫に、フレイヤは心底ショックを受けたようだった。
無言で立ち尽くし、涙まで浮かべ、私を睨むのではなくパールを未練たっぷりに見つめ続けている。
夫は私の肩を抱いてクルリとターンし、歩き始めた。
それから数歩、早足で進んで、笑顔のまま耳打ちしてきた。
「びっくりした。あれは誰だい?」
そうよね。
彼だって、知らない人よね。
「フレイヤって名乗ってる」
「フレイヤ?」
「ええ。前世の記憶があって、あなたと結婚していたんですって」
「えっ?」
そうよね。
驚いて当然だわ。
「だから、私を疎ましく感じているみたい。あなたを返せって言われたわ」
「なんてこった!」
「知らない人よね?」
「当然だろ! びっくりだよ。まさか疑ってないよな? 僕たちずっとふたりでやってきたろ?」
「ええ、わかってる。衝撃的すぎて」
「だな。とりあえず、できるだけ近寄らないようにしよう。理屈が通じる相手とは思えない」
「同感」
晩餐会の主催者であるシベリウス伯爵夫人ソフィーア・ユングレーンは、親密かつ美麗な微笑みで私たちを迎えた。もちろん4人で相談というのはパールの作り話。私たちがフレイヤについて、報告と相談をしただけ。
「フレイヤ・ハリアンはパルムクランツ伯爵令嬢よ」
ソフィーアもフレイヤの為人までは知らなかったようで、優雅に驚いている。
私は実在の人物だという事に、遅ればせながら驚いた。
夢ならよかったのに。
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