2 知らない人

1/1
102人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

2 知らない人

 前世??? 「それは……どういう……っ!?」 「お待たせ、ヴェロニカ。そちらは?」 「!?」  パールが戻ってきた。  ほっとした。  いつもの笑顔で肩を抱き寄せてくれて、悪戯っぽい眼差しで目を覗き込んでくる。 「ああ、パール」  覆わず私も笑みが零れた。  彼がいれば私は無敵。  彼がいるから、この世界は素晴らし── 「パール!!」 「?」  呼び捨て?  私も驚いているけれど、夫も驚いている。  それでも動じているわけではなく、笑顔のまま問いかけた。 「失礼。どこかでお会いしましたかな?」 「ええ! やっとお会いできましたわ!!」 「……んん」  笑顔のまま言葉を失う夫パール。  高速瞬きでフレイヤを見つめる。 「御父上と、どこかで……」 「いいえ! 父は死にました」  え? 「そうでしたか。心よりお悔やみを……」 「そんな事より、パール! 私を思い出して!!」 「──」  パールが私と同じ境地に。  けれど、頼りになる夫は私の肩をグッと抱いて、ニコッと笑った。 「愉快なお嬢さんだ。ヴェロニカ、シベリウス伯爵夫人が例の件について4人で相談したいそうだよ。行こう。お待たせしては失礼だからね。そういうわけで、お嬢さん。また」 「……!」  笑顔で決別を告げた夫に、フレイヤは心底ショックを受けたようだった。  無言で立ち尽くし、涙まで浮かべ、私を睨むのではなくパールを未練たっぷりに見つめ続けている。    夫は私の肩を抱いてクルリとターンし、歩き始めた。  それから数歩、早足で進んで、笑顔のまま耳打ちしてきた。 「びっくりした。あれは誰だい?」  そうよね。  彼だって、知らない人よね。 「フレイヤって名乗ってる」 「フレイヤ?」 「ええ。前世の記憶があって、あなたと結婚していたんですって」 「えっ?」  そうよね。  驚いて当然だわ。 「だから、私を疎ましく感じているみたい。あなたを返せって言われたわ」 「なんてこった!」 「知らない人よね?」 「当然だろ! びっくりだよ。まさか疑ってないよな? 僕たちずっとふたりでやってきたろ?」 「ええ、わかってる。衝撃的すぎて」 「だな。とりあえず、できるだけ近寄らないようにしよう。理屈が通じる相手とは思えない」 「同感」  晩餐会の主催者であるシベリウス伯爵夫人ソフィーア・ユングレーンは、親密かつ美麗な微笑みで私たちを迎えた。もちろん4人で相談というのはパールの作り話。私たちがフレイヤについて、報告と相談をしただけ。 「フレイヤ・ハリアンはパルムクランツ伯爵令嬢よ」  ソフィーアもフレイヤの為人までは知らなかったようで、優雅に驚いている。  私は実在の人物だという事に、遅ればせながら驚いた。  夢ならよかったのに。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!