13 悪夢の終わり

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13 悪夢の終わり

「大淫婦とは正に修道士らしい侮蔑ですね。普通ならそこはと罵るところです」  執事が重々しく放った言葉に、聖騎士の数人が頷いた。  彼らが此処に来たのは、万が一パーナムがパールだった場合を懸念して、確認しに来たのだろう。あとは、やっぱり、フレイヤを探している。  そしてメランデル伯爵家の誰もが、私の心を尊重してくれる。  私はフレイヤについて沈黙する。  それを、わかっている。 「貴様! 天罰が下るぞ、覚悟しろ!!」  パーナムもあとに引けないようだ。  なんとかなるという夢にしがみついているのも、最早、本人だけだった。  そこへ、思いがけない声が割って入った。 「では私が引き受けましょう」 「!?」  オリガが息を弾ませ、戸口に立っていた。  オリガも騎士をひとり侍らせ、その甲冑から彼も聖騎士団の一員である事がわかる。ひとりが報せに走り、オリガが駆けつけてくれたという事だ。  でも、なぜ……  関与していないというほうが、都合がいいはずなのに。  なんて考えていたら、オリガが走り出し、途中で聖騎士の剣を抜き、一瞬でパーナムに斬りかかった。 「やめて!!」  と、マリサが叫ぶ。    パーナムが身を庇ってしゃがみ、たまたま近くにいた聖騎士たちがオリガを阻んだ。 「退きなさい」 「もう血で汚されるのはごめんよッ!! 剣をしまって!!」  強い語調で命じるオリガの声が、マリサの悲鳴にかき消される。   「、なぜあなたが」  え? 「しまってってば! パール様! 止めてください!! 男でしょう!!」  マリサの悲痛な声の隙間から、たしかに聞こえた。  聖騎士がオリガを、姫と呼んだ。 「レディ・オリガ! 殺すなら外で!! 妻の見てないところで!!」 「パール!」 「君は黙ってろ。ヴェロニカ、やめろ! 見るな!」  胸元に抱き込もうとする夫の手を振り切ってしまったのは、好奇心のため。  たしかに姫と呼ばれていた。  どういう事?   どういう事!?  たしかにオリガは王女のような風格があるけれど、わかっているのはアルメアン侯爵の血を確かに引いているという事。  だとしたら、やっぱり父親が……超高貴な誰か。誰なの? 「レディ・オリガ。オリガ!」 「……」  オリガが剣を構えたまま、意識だけを私に向けた。  彼女がここまでしてフレイヤを庇うのは、フレイヤが身篭っているからだ。そして確実なのは、私を斬りつけはしないという事。  オリガに駆け寄って、肩に触れた。   「あなたがしなくても、この方たちが正しく裁いてくださるわ」 「……」 「それに、ここは私の息子か娘が駆け回る事になる場所なの。お願い」  それでオリガが剣を下ろした。  オリガに侍っていた聖騎士が静かに近づいて来て、剣を受け取る。 「ああ……っ、ヴェロニカ様……! 私の天使……!」  マリサは大袈裟。  だけど、余計な仕事は増やさないであげたい気持ちは本物。 「こんな男、生かしておいては……」 「ええ、そうね」    ほら、天使じゃないわ。   「今ここで殺しては自白が取れなくなります。それに、裁判のあとは処刑されます」  んー……天使に近い人たちも、パーナムを生かしておく気はないのよね。元々ね。 「クソ……っ、クソっ、くそぉ……! パルムクランツのクソ爺……!!」  ああ、まあ、死んでしまえばいいわ。  みんな嫌な事は忘れて、日常に戻りたいもの。
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