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「なるほど。あなたは、その男と会った事がないんだ。ではいい機会でしたね。この顔です。似ている男を探すとなれば、いくらか仕事が楽になるでしょう。乗り掛かった舟だ。あらゆる変装を想定して仮装して差し上げましょうか」
「楽しい御提案ですが、その必要はありません」
今、まだ、オリガの実の父親はわからないまま。
パルムクランツ伯爵夫人、かつてのアルメアン侯爵令嬢には禁じられた恋人がいた。かつて、初老間近のパルムクランツ伯爵はアルメアン侯爵令嬢を……逃がす必要はないのだから、なにかしら助けたのではないだろうか。オリガは私生児。
「……!」
禁じられた恋人のこどもを身籠ったアルメアン侯爵令嬢を、匿い、無事に出産させた。とか?
その考えが閃いた瞬間、私は夫とオリガの会話に割って入る形で問いかけていた。
「フレイヤは妊娠している?」
「!」
「えっ? なに?」
オリガが息を止め、夫は目を見開いて体ごと隣に座る私のほうに向き直った。
私は夫の顔を見たりはしなかった。オリガを見つめていた。
オリガは、高貴な鎧を脱ぎ、焦りを見せた。
無防備だった。
真実に近づいている。
「夫はフレイヤの恋人が目の前で亡くなって取り乱したのではないかと予想していたのだけれど、私は生きていると信じています。亡きパルムクランツ伯爵は、成功したのでしょう? あなたが生まれた時も。だからあなたは、フレイヤを逃がす事が、使命だとお感じなのでしょう? 宿命だと。でも、フレイヤの恋人は、どこにいるかわからない。あなたも知らない。落ち合う約束を果たす前に、パルムクランツ伯爵が亡くなってしまったから」
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