13 悪夢の終わり

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「口を慎みなさい、偽物さん」  私は腰を屈め、夫に似た極悪人を窘めた。  すると頭上で…… 「パルムクランツ卿? 姫、まさか……」 「そうです。私と同じように、養女になりました。例の孤児へ手出しは無用です。あとはこの男の口さえ塞げば」 「それならそうと仰って頂ければ、自白を取らず檻に入れ、口枷をして絞首台に引きずり出します」  どういうわけか、教皇庁直属の聖騎士がオリガを姫と呼び、従おうとしている。   「ねえ。オリガって何者なの? あなた、なにか知って──」  俯いて呪いの言葉を吐き続けるパーナムに無駄とは承知で問いかけたところで、私の両脇にパールの手が滑り込み、持ち上げられて、連行されてしまった。そして夫は私を立たせ、ドレスを上から下まで軽く叩いた。 「大丈夫よ。汚れてない」 「君は鈍いから見えないだけだ」 「そう? じゃあ、お願い」  案山子のように両手を広げる。  おてんばではないのにすぐ埃だらけになる私の世話をしてきた人。どんなに似ていたとしても、パールみたいな人は他にいない。かけがえのない人。  かけがえのない人を裏切ったあっちのそっくりさんがどうなろうと、知った事ではない。 「あなたとの穏やかな日常が戻ってくれれば、オリガの正体なんてどうでもいいわ」 「そう言った3秒後には好奇心が爆発するからな。本当に、君から目が離せないよ」  ドレスを叩いた手で引き寄せられて、額に軽いキスを受ける。    結婚って、本当に幸せ。  愛する人と、一生、一緒に暮らしていける。一緒に生きていける。 「……」  命を賭けて秘密結婚までしようとしたのに、フレイヤを裏切って、首を刎ねろだなんて。最低にもほどがある。フレイヤがましに思えてきた。 「立て!」  厳しい叱責に思わず振り向く。  パーナムが鎖に繋がれて、取り囲まれ、連れて行かれる。  これで本当に終わり。あとはフレイヤが無事にお産をして、過去を忘れるだけ。その方法なら、パルムクランツ伯爵夫人が教えてくれるはずだから。  よかったわ。 「……」  よかった。
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