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3 謎だらけの伯爵令嬢
「数ヶ月前にパルムクランツ卿が亡くなって、気分転換になればと思ってご招待したのだけれど……あら、まあ、そう。そいういう方なの」
ソフィーアが私の腕にソフトタッチ。
「話してくれてありがとう、ヴェロニカ。こちらも気をつけます。どうか忘れて、晩餐会をお楽しみになって」
「ありがとうございます」
こうして、忙しい主催者への不審者の報告は終了。
パールと私は美味しいワインで気分を上げる事にした。
「パルムクランツ卿……思い出せそうで思い出せないわ」
亡くなった時、私、お葬式に参列していないのかしら。
「パルムクランツ卿と言えば……ほら。僕らがミューバリ侯爵が趣味で建てた巨大な博物館の開館式に招待された時、来るはずだったけど来なかった例のお爺さん」
「あ」
パールに言われて、思い出した。
世界旅行が趣味のミューバリ侯爵が、代々集めた逸品を公開するべくして2代に渡って建築した壮麗な博物館。この先も代々、収集品を展示する事も考慮された、とにかく広い博物館。
あの開館式、とても楽しかった。珍しい物や、超高級品なども多くて。
そして滞在している間の好待遇。
素敵な新婚旅行になった。
日を分けて平民まで招待したというから、それが印象的で、年相応の訃報についてはきれいサッパリ忘れていた。ミューバリ博物館の開館式に招待されていた貴族は、みんな葬儀に間に合わなかったはずだ。遠すぎて。
「思い出した?」
「ええ、思い出した。随分と御高齢だったって方よね」
「そうそう。一生独身かに思われたのに、晩年になってから、もう中年に差し掛かっていたアルメアン侯爵令嬢を娶って、その私生児まで引き取った」
奇特なお爺ちゃん……
「えっ!?」
「?」
私は重大な事実に気づいてしまい、大声をあげた。
「じゃあフレイヤって侯爵家の血筋なの!?」
どうしよう。
父親が不明だけど、少なくとも侯爵家の血筋が入っているとなると扱いに困る。もし秘密の父親まで超高貴な方だったりしたらもう太刀打ちできない。
邪険に跳ねのけて、こっちの首が刎ねられちゃったら大変だ。
「なにを考えてる?」
パールが、抓んだままになっていたマスカットを口に入れてくれた。
甘くて、爽やかな香りが鼻に抜けて……
我に返った。
「超高貴な血筋かもしれない令嬢が、あなたを狙ってる」
パールは笑った。
「あんなの狙ってるうちに入らない。君を『可愛いなぁ~』って目で眺めている独身貴族連中のほうがよっぽど脅威だよ」
「私はあなた一筋よ」
「僕も君一筋」
ふふふ、とふたりで笑って、チュッとキスしていたら、彼女が来た。
「パール?」
とても自然に、脇に立ってた。
浮気を咎める女の顔で。
「!?」
「!」
驚かないなんて無理な相談。
と、そんな恐ろしいフレイヤの腕をぎゅっと掴む人物がいた。
聡明そうな美しい令嬢だった。
「妹が御迷惑をおかけし申し訳ありません」
「?」
驚く私たち夫婦からサッと引き離し、その令嬢はフレイヤを連れ去った。
呆然と見送る。
「保護者がいた」
少しして、パールが呟いた。
「ええ」
安心した。
そしてまたしばらくして、事情を聴いたらしい保護者の令嬢が単身で戻って来た。押さえておける人物がほかにもいるか、部屋に閉じ込めるかしたのだろう。
あ、いた!
という感じで私を発見して、ドレスの裾を掴む勢いで向かってくる。
そして深いお辞儀で陳謝された。
「本当に申し訳ありませんでした。妹が、とんでもない御無礼を……!」
真っ青で冷や汗までかいていても尚、聡明な美が損なわれていない彼女の低くなった頭を、夫婦でじっと見つめちゃう。
「私はパルムクランツ伯爵令嬢オリガ・ハリアンと申します。母に代わり、心からお詫び申し上げます。妹フレイヤは養父が他界してから少し不安定で、ときどきあのように取り乱してしまうのです。今は母が見ておりますので、もう御迷惑はおかけせずに済むと思います。本当に申し訳ございませんでした」
「……養父」
パルムクランツ卿の引き取った私生児は、ふたり……?
「はい。妹は、養父が晩年になって教会から引き取った孤児なのです」
「……ぇえ!?」
ちょっと待って。
それじゃあ、いろいろ謎すぎる令嬢が私の夫を狙ってるって事?
恐すぎる!!
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