ココルの兄

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ココルの兄

 四歳のココルに兄が出来た。  父の再婚相手に十二歳の息子がいて、ココルと一緒に暮らすことになったのだ。  ココルは早速、引っ越してきた兄と遊ぼうと思った。しかし、飛行機のおもちゃを持って兄の元へ行くと、彼は本を読んでいた。 「おにいちゃん。ぼくとあそぼう」 「今は忙しいからだめだよ」  兄は本を見つめたまま、ココルを見もせずに答えた。ココルは少し悲しくなった。 「そのほん、ぼくもよんでいい?」 「それは無理だよ。これは小説なんだ。今の君には難しすぎる」  二度も兄に断られ、ココルはますます悲しくなった。  次の日も、兄は小説ばかり読んでいて、ココルと遊んでくれなかった。  ココルは泣きたい気持ちになっていた。しかし、もしかしたら兄が遊んでくれるかもしれないと思い、飛行機のおもちゃを握りしめて、ずっと彼の横にいた。  そんな日々が、一ヶ月続いた。  母と兄が引っ越してきてちょうど一ヶ月経った日の朝、ココルは父の大声で目が覚めた。 「あの女! 金を持って逃げたのか!」  いつもは優しい父の目が、今は血走って、恐ろしい形相になっていた。  ココルは恐ろしくなって、ベッドの中に逃げ込んだ。そして、そのとき初めて、兄の荷物がすべて無くなっていることに気がついた。 「おにいちゃん、どこにいったの?」  兄を探そうとベッドから下りたとき、ココルは枕を落としてしまった。そして、その下に置かれていた一枚の手紙を見つけた。  まだ四歳のココルには読めなかったが、その手紙にはこう書いてあった。  ココルへ  いつも遊んであげられなくてごめん。  だけど僕は、もうすぐこの家を出て行くんだ。  ずっと前から、そう決まっていたんだよ。  ココルと仲良くなってしまったら、この家から出るのがつらくなる。  だから僕はずっと、本を読んで、君の顔を見ないようにしていたんだ。  君を悲しませてばかりいてすまない。  僕のことは、少しも遊んでくれない意地悪な兄だと思ってくれていていい。その方が君のためだ。  最後に。  君が、ずっと元気で暮らせるように願っているよ。  一ヶ月だけの兄だったリコラより
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