【作品鑑賞 D坂の殺人事件解説】

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【作品鑑賞 D坂の殺人事件解説】

 この作品は、江戸川乱歩の代表作に数えられるだけでなく、日本のミステリー小説を代表する明智小五郎が最初に登場するミステリー小説である。  1925年(大正十四年)一月。江戸川乱歩が寄稿していた当時のミステリー小説専門誌「新青年」(博文館)増刊に掲載された。  D坂は団子坂のこと。東京都文京区地下鉄千代田線千駄木駅から西へ上る坂のこと。(ブリタニカ国際大百科事典による)  乱歩は1919年(大正八年)二月より翌年十月まで、本郷区駒込林町六番地団子坂上に住み、ふたりの弟と古本屋を経営していた。  この作品は単に明智小五郎の初登場作品というだけではない。  本格推理をめざした意欲的な作品である。  密室、人間消失、指紋の謎、そして容疑者と思われる男の着物の柄。  明智小五郎という奇妙な人物をうまく使って次々と謎を提示し、理知的に解決していくプロセスの面白さは堪えられない。  荒正人は前出した『江戸川乱歩傑作選』の解説で激賞している。 <……日本の開放的な家屋では、密室殺人事件など書けない、という偏見を作品によって打破しようとしたものである>  なお明智小五郎のモデルは、作中でも触れられている通り、講釈師の五代目・神田伯竜(かんだはくりゅう)(1890~1949)である。  乱歩は自伝『探偵小説四十年』で次のように書いている。 <その頃、私は大阪の寄席で伯竜を聴いてひどく感心した。好ましい意味の畸形な感じを多分に持っていた。そこで何気なく素人探偵のモデルに使って見たわけである。  明智探偵は一ぺんきりでよすつもりだったが、誰彼に「いい主人公をつくりましたね」といわれるものだから、つい引き続いて小五郎ものを書くようになった>   
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