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1・マスクの秘密
クラスメイトのボタンのことはよくわからない。
無愛想なやつだし、無口だし、なに考えてるかわからないし、年中マスクを付けてるし。おまけに一度もマスクを外したことがないから素顔は誰も知らない。そもそも、ボタンという名前だってどこかの誰かが言い出したあだ名だ。
隠されているものを暴きたくなるというのが人の性分というもの。今まで何人もの生徒が彼のマスクを剥ぎ取ろうとしては返り討ちに遭ってきた。
今日も無理やりマスクを奪おうとした男子を突き飛ばしたボタンは、いささか疲れた様子で隣の席に着く。
「前から思ってたけどさ、なんでマスクを取らないの」
ほんの気まぐれで尋ねてみると、前髪の隙間から覗く目が少しだけ見開かれた。
「君までそんなことを気にするのか」
一応はね、と僕は返す。理由も明かさずに年中素顔を隠していれば、そりゃあ好奇心旺盛な年頃であるクラスメイト達の興味を惹いてしまうだろう。なにか事情があるのかと訊けば、ボタンは簡潔にただ顔を見られたくないだけだと答える。
「まさか、君までマスクを剥ぎ取ろうってんじゃないだろうな」
「は? そんなことしないけど」
目に見えて警戒したボタンに、僕は呆れ顔で告げた。だいたい同じクラスになってからずっと隣の席なんだから、マスクを剥ぎ取るつもりならとっくに行動に移している。そのチャンスはいくらでもあった。そう説き伏せれば、ボタンは一応は納得したようだった。
「気にならないのか、素顔」
「気にならないって言ったら嘘になるけどね。正直そこまで興味ない」
それでもなお不思議そうに言ってくるのでそう返したら、ボタンは驚いたように変なやつだなぁと言ってくる。それはそっちのほうだろと内心思いながら、僕は授業の準備を始めるのだった。
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