ただよって、ただよって

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 いい加減聞き飽きた頃になると日が沈んできたので、移動する事にした。とりあえず海沿いに歩き出す。途中、数台の車とすれ違ったが、それ以外誰も居なかった。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン。  そうして歩いていると自販機を見つけた。自販機を見て気付いたが、喉がカラカラだった。 僕は最後の金を振り絞って缶コーヒーを買った。酒でも飲みたかったが、金が足りないし、そもそも自販機になかった。また歩き出す。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン。  缶コーヒーをちびりちびりと飲みながら歩いた。最早ここがどこかも分からないが、道は続いている。永遠と海沿いに続く道の先を見ながら、歩いた。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン。  歩いているとコーヒーが尽きてしまった。僕を供する仲間はもういない。いや、空き缶がいるにはいるが、こいつはただの荷物でしかない。捨てる場所に悩んだ結果、海に投げ捨てた。空き缶は直ぐに波間に消えていった。しばらく行方を探したが見つからなかったので、また歩き始めた。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン。  変わらない景色と音に辟易してきた。少しでも気を紛らわそうと堤防の上を歩くことにした。それでもさほど変わらないが。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン。  下を向いて歩いた。堤防を境界に海と道が別れている。道は動かないが、海はウネウネと生き物のように動いている。静と動。陸と海。僕はどこに行こうとしているのだろう。 ゴォォオ  不意に一際強い風が吹き、僕の背中を押した。僕はバランスを崩して足を踏み外し、海へと落ちていった。落ちていく最中は何も感じなかった。いや思考が停止していたと言うべきかもしれない。何も考えずにただ落下していった。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン、どぽん。  落ちてからは劇的だった。冷たい、寒い、苦しい、重い。変な体勢で落ちた所為でどこが上かも分からない。酸素が欲しいと暴れるが一向に海面へは辿り着けない。耳の中ではあの音が今も聞こえる。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン。  気が付くと海を漂う感覚だけが僕に残っていた。冷たくもなく、寒くもなく、苦しくもなく、重くもない。何もない中、ただ漂っているような感覚といつまでも聞こえる風と波の音だけが残っている。 ゴゴゴ、ゴゴゴ、ザザーン、ザザーン。  こうして漂っているが僕自身が今どうなっているかも分からない。そもそもこの話を聞いている人がいるのかも分からない。この海には何もない。時折何かにぶつかるような感覚があるがそれも定かではない。一体私はいつからこうしているのだろう。 1週間?1ヶ月?1年?…
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