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 ある貧しい家庭には子どもが三人いる。そのなかのひとりの子どもは障害を持っていた。母親はその子どものことをほかの子どもよりも愛していると、周囲のひとから見られたかった。近所のひとと話すときもいつも決まってその子どもの話になるので、その話題が出るたびにその子を愛しているといって回った。その子は家の酪農の手伝いを文句も言わずに手伝ってくれた。それでも一家の生活はだんだんと苦しくなった。ほかの兄弟は稼ぎのいい職業を探しに家を出た。順調に育っていたかに見えたその子だが、ある時具合を崩してから、体調は悪化の一途をたどった。医者に診てもらったが、もう治らない。施設に入れないといけないといわれる。母親はこの子を愛しているのです。自宅で見られますというが、無理だと父親に説得されて泣く泣くその子を施設に送ることにした。その子を施設へ送り届ける日。車のなかで母親はその子が泣いているのを見た。自分がどういう運命をたどるかわかっているのかもしれない。母親は泣くその子を見て、生まれてこなければこんな残酷な目にあわなかったと嘆いた。  障害のある子どもを持った母親の話でした。この母親が本当に愛していたのか、それとも世間体を気にしていただけなのかはわかりません。ただ、この小説のなかでほかのふたりの兄弟の名前は記されているのですが、この子の名前だけは出てこないのですね。不気味ですね。
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