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 ある少年、バスに乗ってとある家を探しに来た。となりには姉がいる。  ことのはじまりは自宅で偶然見つけた家族の写真だった。前に住んでいた一軒家でとられたもので、両親と姉が映っている。両親は少年が生まれるとほぼ同じ時期に写真の家を手ばなして、わざわざアパートの一階のすみの部屋に引っ越したのだ。少年は姉にいう。自分が生まれたせいで両親は引っ越したのではないか。もともと産む予定ではなかったのではないか。それを調べに一軒家を探しに来たと。  一軒家に着くと、現在そこに住んでいる老人に話をする。写真を見せると、あまり話せることはないけどと家に入れてくれた。老人はいう。両親とは会ったことがあるが、姉は知らない。それもそのはずで少年の姉は死んでいる。少年にはすがたも見えるし、声も聞こえるが、他人にはさっぱりだ。姉が死んだ理由はふたりとも知らなかった。家族の会話には出ないのだ。少年はその家の二階に上がる。部屋がふたつあった。両親の部屋と姉の部屋。少年の部屋はない。やはり自分は姉の代わりに生まれたのだろうか。少年が落ちこんでいると、老人が話を聞かせてくれた。この二階の部屋から姉は落ちたのだと。すこし目をはなしたすきに落下して、助からなかった。両親はそのことに心を痛めてこの家をはなれたのだろう。わざわざ一階を選んだのは子どもを落下させないためだ。  知らなかったことを知った少年と姉はバス停でバスを待つ。知ろうと思ったことはすべて知れた。姉が、なにかおもしろい話をしてよとうながす。少年は早口でまくし立てた。話が途切れたら姉がいなくなってしまうのではないか。そんな気がした。  おもしろい話でした。連作短編の第一話なので、まだまだ話が広がりそうな感じがします。この話だけでもおもしろく読めましたが。
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