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 ある放置された墓地に名前の刻まれていない墓がある。ほかの墓石より小さく、太陽が沈む絵がうすく刻印されていた。その墓を気にいった少年がいた。毎日のように墓をおとずれて、手入れをする。雑草を抜いて花を植えた。少年にとって墓は親友のようなものだった。少年が墓のめんどうを見てから季節は廻った。ある秋の夜、少年が墓に寄りそって寝ていると、墓地に五人の男たちがやってきた。棺を持ち運んでいる。少年の墓の前で立ちどまり、土を掘りかえした。少年がこの墓にはぼくの弟がいるんだと言ってもやめてくれない。男たちはここには由緒ある国の王子がいる。こんな墓地にいるべきではないといって埋まっていた骨をひとつ残らず棺に入れて持ち去った。残された少年は魂を抜かれたような顔で自宅へ帰る。両親に自分は死ぬんだといって眠りについた。翌朝少年は本当に亡くなっていた。少年は望んだとおり、あの小さな墓に眠っている。  墓を愛した少年の話です。ふしぎな雰囲気がよかったです。とくに合理的な説明はないですが、いろいろ想像はふくらみますね。
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