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 ある若者がいる。街の店で働いていて、容姿がよく女性から人気だった。そんな若者がある日、漁のために船で沖へ出る。帰ろうとしたところ、流されて岩の壁にたどり着いた。その岩に線が引いてあるのに気がついた。よく見ると、丸い取っ手がついている。若者はその引きだしを開けた。衣装や装飾品などいろいろなものが入っている。どうやら地下の住人の世界につながっているようだ。若者が帰ろうとすると、女性がいるのに気がついた。顔が白く眼が光っている変わった女性だった。若者は急いで船を沖に出した。街へ帰る。しかし、若者は海で見た光景が忘れられなかった。何度も何度も船で岸壁をたずねる。そのうちに女性と近づく。あるとき、若者がたずねると、女性が引きだしを開けた。そこには婚姻のための道具が閉まってあった。さすがにまずいと思った若者は海へ戻り、二度とここには来ないと誓った。店に戻り、店主の娘と結婚した。だが、クリスマスが近づくと、若者は落ちつかなくなり、クリスマスイブの数日前にはすがたを消した。どこを探しても見つからない。しかし、クリスマス当日になると、明るい顔をして帰ってくる。こんなできごとが何年もつづいた。ある年、若者は今年こそはいなくならないと誓って自宅に閉じこもった。妻もそばで支えたおかげでこの年、若者はすがたを消さなかった。そのことを祝おうと家族を集める。しかし、若者に異変があらわれた。なにかに引きずられるように顔から血の気が引く。まっ白な顔になったとき若者は死んでいた。  ふしぎな話でした。別世界へ引きずりこまれたのでしょうか。
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