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 ある男性、森のなかを歩く。男性には未来を予知できるちょっとした力があった。このまま森を進むと他人の家に突き当たるのを感じる。だが、どうせ話しかけられないだろうとそのまま向かう。家に着くと、住人がテラスに出ていて声をかけられた。見ると、著名な医師ではないか。休日は街をはなれて森のなかでゆっくりしているのだという。医師が酒を勧めるので、男性は受けることにした。酒を飲みながら話をする。酔いが回ったためか、いつもより饒舌になる。男性は自分の力について話した。すこしばかり未来が見えるのだ。たとえばあなたの同僚は今日の夕方事故で亡くなる。だが、いつもこの力を使うわけではない。自分の将来をすべて見てしまった日にはなんのために生きているのかわからなくなりますからね。医師が笑う。男性は眠くなった。意識がなくなる。気がつくと、男性はベッドに寝かされていた。医師に監禁されたようだ。目覚めた男性に医師が話しかける。あなたの力はすばらしい。その力をわたしのために使ってもらいます。冗談じゃない。わたしはここから帰る。男性が医師に言う。しかし、医師は言った。残念ですが、かなわないことです。あなたの両足は切断させてもらいました。さあ、わたしのために未来を予測してください。  予知能力を持っていることを話したために、両足を切断されてしまった男の話でした。便利な力を持っていると他人に利用されてしまいますね。
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