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 ある青年が伯父から莫大な遺産を手にした理由についての話である。  伯父は医師として外国に派遣されていた。ところが心身ともに疲労したため本国に戻されることになった。帰国した伯父に会うために屋敷をおとずれる。すると、ひさしぶりにあった伯父に頼みごとをされた。人体標本のある部屋で寝てほしいというのだ。その標本は外国で勤めていたときに伯父が集めたものだった。びんに臓器が入れてある。しかし、外国で火事にあい、半分以上焼けてしまったという。いまあるのは燃えなかったものだ。  青年がその部屋で寝ていると、物音で目が覚めた。暗闇で目を開くと、幽霊がいる。そいつは並べられたびんをひとつひとつ眺めて、すべて見終わると失望の表情を浮かべて消えた。朝起きて伯父にわけを聞く。海外で治療のために手を切った患者がいる。その患者から切った手を預かったのだが、どうも患者が死んで、手を取りもどしに来たようだ。しかし、預かった手は火事で焼失したのだ。そいつが毎晩あらわれて伯父は体調を崩した。  事情を聞いた青年は友人の医師にあたって手をもらい受けた。その手をびんに入れて幽霊の出る部屋に置いた。その日以来、伯父が幽霊に悩まされることはなくなった。こうして、青年は伯父から遺産を受けついだのである。  手を取りもどしに来る幽霊に代わりの手をあげる話でした。これで莫大な遺産がもらえたのですからいい話ですね。
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