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 わたしがおばの家に行くと、その女性はいた。二週間ほど滞在しているらしい。あまり好印象ではなかった。その女性から、出かけるついでに屋敷にある旅行時計をとってきてほしいと頼まれた。鍵を渡され、わたしは用事を済ませたあと屋敷へ向かった。屋敷に入る。二階の奥の部屋の机に時計はあった。しかし、その時計は動いていた。ねじを巻かないと動かない時計だ。二週間も動くはずがない。しかも自分の時計と時刻を比べると、合っているではないか。この屋敷にだれかいるのだろうか。女性はそんなことを言っていなかったが。そのとき、階段を上がる音が聞こえた。足音という感じではない。なにかが跳びはねるようにして階段を上がってくる。わたしは時計をつかみ取って窓を開けた。窓から一階の屋根へ降りる。そいつが来る前にさらに地面へと降りて、道を全力で走った。窓を開けたままにしてきたが、しかたのないことだ。わたしが屋敷を振りかえると、窓が自然にしまった。やはり、だれかがいるのだろうか。  だが、わたしはその答えを得ることはなかった。時計を手渡す前にその女性は発作を起こして死んだ。あの屋敷は女性の親戚に受けつがれたらしい。この件があって以来、わたしは旅行時計がすこし苦手になった。  ホラー作品です。屋敷になにかがいるが、その正体はなぞのままでした。短めの話ですが、不気味な雰囲気がありました。
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