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 ある収集家の男性がいる。男性は手当たり次第にものを集めていた。男性には仕事上のパートナーがいた。正直者が取り柄の男だ。ふたりが組むことによって仕事はうまく回っていた。ところがささいなことが原因でふたりは仲たがいしてしまう。収集家の男性はひとりでもある程度やっていけるが、正直が取り柄の男はこの先きびしくなるだろう。そんなあるとき、男性の事務所に男がかばんを持っているのを発見した。男性が帰ってくるなり、男はかばんを隠した。そして、意味ありげに笑った。男性がなにをしに来たと聞く。ただ、荷物を整理しに来ただけだといって足早に帰った。男性は男がなにかを盗んだのではないかとうたがった。しかし、いかんせんものが多い。絵画ではない。本でもない。弱みを握れる類の品でもない。なにがなくなったのかまったくわからない。男性は探偵に依頼したが、結局男がなにを盗んだのかわからずじまい。男性はこの件のストレスもあって亡くなってしまった。なぞは残された。探偵はなぞが気になって男を探してなにを盗んだのか聞いた。男はなにも盗んでいない。わたしはただ男性の心の安寧を盗んだのですよと答えた。  なにかを盗まれた気がするが、それがなにかわからないという話でした。金銭でもない、貴重品でもないとなると、このオチしかないですね。
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