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 超常現象を研究しているという教授がいる。その教授が友人にとっておきの話を持ってきた。わたしは科学者だ。あやしげなものは信じたくない。しかし、この話を科学的に説明できるかね。教授は話しはじめた。予知能力を持つ少女がいる。少女は万引きをする人間をかならず見抜くことができる。なにか悪いことが起こる予感がするのだそうだ。少女が万引きをすると指摘した人間は全員犯行に及んだ。少女の力はこれだけではない。あるとき、少女の頭にある光景が浮かんだ。火のなかでだれかの名前を呼ぶ女性がいる。気になって調べてみる。同時刻に遠くはなれた場所で火事があった。アパートが燃えて、住人のうち五人が犠牲になった。そのなかに女性とその息子がいた。息子の名前こそ少女が口にしたものだった。この話を聞いて友人たちはいろいろな説を出した。すばやくニュースを拾ったのではないか。これは発生時刻と少女の予知の時刻の関係で否定された。少女に共犯がいてわざと火事を起こしたのではという説が出た。アパートの全員がなくなったわけではない。だれが犠牲になるか選んで火事を起こすのは不可能だろうと、これも否定された。じゃあ、犠牲になった女性もぐるなのではとの説に、教授は火事の原因は雷だ。雷を起こすなど人間には不可能だろうとこれも否定した。そこでこの話を聞いていた友人のひとりが言った。わかった。そもそもこの話が作り話なのだ。雷が原因の火事はめずらしい。他人に話すならまっ先に言うはずだと。教授はこの指摘を受けて作り話であると認めた。なんのためにこんな話をという友人に、超常現象を否定したいあまりに人間は話の細部にばかり気を取られてその話がうそだと気づかない。それを実験したかったのだと答えた。  このオチはどうかと思う話でした。そもそもつくり話でしたというのは、さすがにきびしいのではないでしょうか。
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