148

1/1
前へ
/284ページ
次へ

148

 あるマンションの一室。深夜、男性が寝ている。ノックの音がする。男性はぴくりとも動かない。寝ているのではない。人生に絶望しているのだ。起きる気力もない。しばらくするとノックの音はやんだ。すると、今度は窓が割れる音がした。空き巣が入ってきた。部屋にいる男性を見ておどろく。や、留守だと思ったが。男性無気力に答える。空き巣がなんの用です。どうせろくなものはない。好きなものを持っていけばいい。空き巣はとまどう。妙なやつの部屋に入ったものだ。なぜ、そんなに無感動なのだ。女性にふられたのです。生きる希望をなくしているというわけですよ。空き巣は男性に言う。気力を出したらどうだ。人生なにが起こるかわからない。空き巣のわたしだってこうやって生きている。やる気になれば案外できるものだ。そういうものですか。話していると、玄関にノックの音が。ドア越しにだれか聞くと、警察だ。どうやら窓の外にも待機しているらしい。空き巣はあわてる。「逃げないと」「無理でしょう。囲まれています」「こうなったらお前を人質にしてでも」「成功するとは思えませんね」「じゃあ、どうすれば」「こういうのはどうでしょう。あなたがわたしのふりをして警察に対応するのです。わたしはタンスに隠れていましょう」「なるほど、いいかもしれない」男性は見つからないよう隠れて、空き巣が玄関のとびらを開けた。「どうしたのです。こんな真夜中に」「お前がこの部屋の住人か」「ええ、そうです」「署まで来てもらおう。お前がつきまとっていた女性が遺体で発見された」空き巣はおどろく。「いえ、ちがうのです。わたしはここの住人では」「なんだ。いまさらそんなうそをついて。それとも身元を偽る理由でもあるのか」空き巣はなにも言えなかった。警察に連行されていく。静かになった部屋で男性が出てくる。「やれやれ、あいつがいっていたとおり人生なにが起きるかわからないものだ。希望を失わずに生きようではないか」  殺人の罪を空き巣に押しつける話でした。他人に押しつけられれば最高ですね。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加