149

1/1
前へ
/284ページ
次へ

149

 とあるビルの一室の診療所に客が来る。助手が対応するはずだが、昼休みから帰ってきていない。しかたなく精神分析医である男性が出る。男装をした女性だった。ここには変わった患者が多く来る。医師は落ちついて話しかける。どうされたのです。女性がいう。豚を殺したのです。なるほど、すこしおかしいのかもしれない。しかし、動物を殺して食肉にすることに罪悪感を覚えるひとがいることは事実だ。医師は話をつづける。悩みごとはそれだけですか。いえ、犬に追われているのです。男性の格好をしているのも犬から逃げるためです。だんだんと妙な話になってきた。犬とは現実のものではなく、女性の恐怖心のあらわれなのかもしれない。医師がアドバイスをする。犬と仲良くなるのはどうでしょう。仲良くですか。うまくいくものでしょうか。むずかしそうですか。でしたら、犬に立ちむかうのはいかがでしょう。追われてばかりではないと、力を示してやるのです。女性は医師のいうことに納得した。わかりました。退治してみようと思います。次回の約束をとって女性は帰っていった。そこへとなりの弁護士事務所から弁護士が来る。どうしたのです。妙な電話があったのです。豚のような夫を殺して、夫の犬のような部下に追われている。男装して逃げているが、助けてもらえるかと。医師はすぐに女性を思いうかべた。あの女性、いまごろわたしのアドバイスを受けてなにをしているだろうか。  客が部屋をまちがえたために、アドバイスがとんでもないことになってしまった話でした。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加