153

1/1
前へ
/284ページ
次へ

153

 ある作家、とある編集者にあずけた原稿が雑誌に掲載されず、返却もされずに悩んでいる。二年も前の話だ。どうして動きがないのだろうと、友人たちに相談する。原稿に書いてある内容が悪いのでは。それなら具体的にここを修正しろといってくるはずだ。その話には編集者といまは亡くなった妻が食事をしたシーンが描かれている。しかし、軽くモデルにした程度で個人は特定できない。しかし、それでもなにか気に障ったシーンがあったのでは。それも言ってくれればいいだろう。それに編集者は新しい妻と再婚している。亡くなった妻についていまさらなにか言われることもないだろう。では、原稿が止まっている理由はなんなのだろうと作家が悩んでいると、友人のひとりがその食事のシーンは具体的にどんな文章だったのかと聞いてきた。亡くなった妻が塩分を控えていることが描かれていた。編集者はそこが気になったのではという。元妻は心臓の病で亡くなったはずだ。塩分を控えていたのは病気のためだろう。それを知って編集者がこっそり塩を混ぜていたりしたら。事件として成立するかはおいて、気にはなるのでは。それを聞いた作家は編集者に連絡を取った。そのシーンを変更するという。すると、編集者は二年も前の原稿なのにその文章を空で言えるほど記憶していた。どうやら当たりだったようだ。  原稿に編集者が気になる文章を書いてしまった作家の話でした。なにげない描写でも殺人にかかわるかもしれないと思えば不安でしょうね。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加