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 女性とその友人が避暑地のホテルに泊まっている。十日前からここにいる。そこへノックの音がして年老いた婦人があらわれた。宿泊料金の計算をまちがえてお金が無くなってしまったという。品物を売るから買ってほしいとのことだ。金色のピンだった。ふしぎな模様が彫ってある。女性は雰囲気が気に入り買うことにした。婦人がいうにはこのピンにはある力があるという。ピンに糸をつけてカブトムシをその糸に結ぶ。会いたいひとの名前を唱える。カブトムシがピンの周りをまわって糸が巻きつく。糸が回収されて生き、ピンにカブトムシがついたら名前を言ったひとと出会える。友人はでまかせだというが、女性はおもしろがって試すことにした。婦人が帰ったあと、カブトムシを見つけてある男性の名前を唱える。半年ほど前に友人から紹介してもらった男性だ。好印象を持っていたが、最近会えないでいる。糸はだんだんと巻かれていく。そして、ついにピンにたどり着いた。そのとたんにドアにノックの音が。出ようとする女性を友人が止める。あのひとが来るはずがない。だって、数か月前にわたしが殺したの。わたしとつき合っていたのにあなたに会わせたとたんわたしを捨てるから。友人は半狂乱になってピンを窓の外へ投げすてた。ノックの音はぴたりとやんだ。まるではじめからなにもいなかったかのように。  死んだひとが会いに来る定番の話でした。「猿の手」を連想します。
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