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 ある男性がかかわった殺人事件についての話である。  ことの起こりは男性の妻が男性と待ちあわせをしていたときだった。ひとごみのなかで男性を見つけた妻がその人物に向かって呼びかける。だが、その人物は妻の声に見向きもせずどこかへ行ってしまった。ひとちがいだったのかとその場で待っていると、数分後に同じ服装をした男性があらわれた。妻があなたにそっくりのひとがいたの。双子じゃないでしょうねと聞く。男性は生まれたときには双子だったのだが、その子は二日も生きられずに死んだと答える。  その後も事件は起こった。妻の友人の前にすがたをあらわしたり、男性の伯父の前に出てきて金をねだったり。なにしろ男性と見分けがつかない。みな混乱した。男性は事態を重く見て警察に相談した。だが、警察はまともに取りあってはくれない。男性が架空の人物を作りあげて罪を押しつけているのだろうと決めつける。警察は男性に忠告した。遺産欲しさに伯父を殺さないよう気をつけるんですな。男性はがっかりして警察をあとにした。  それから数週間後、男性は出張へ向かった。家でひとり待つ妻のもとに男性があらわれた。出張はなしになったという。妻は目の前にいるのが本物の男性かどうか区別がつかなかった。男性を試すようなまねをする。しかし、男性がひどく傷ついた様子をしたので、本物の男性だと信じることにした。男性とともに買いものへ行き、レストランで食事をとる。終電の時間をとっくにすぎて、車を呼ぶはめになった。翌朝男性は仕事場へ出かけていった。妻は不安になる。本物だったのか。職場へ連絡をする。すると、男性は列車に乗っているといわれた。昨日のあの人物はにせものだったのか。妻は動揺する。  それからさらに時間がたって決定的な事件が起こった。伯父の前に男性が出現した。伯父はにせものかどうか確かめるために男性の仕事場へ連絡を取るよう秘書に指示を出していた。その答えは仕事場にこもっているそうだ。伯父は男性を警察に突きだそうとするが、その前に刃物で刺された。犯人は新聞越しに刃物を刺し、返り血を浴びないようにした。警察が来る前に犯人は逃げる。わざとひと目につくようにふるまった。男性の存在をアピールする。  警察が来たときには犯人はすがたを消していた。男性の仕事場を警察がたずねる。警察は男性にそっくりの人物がいるなど信じていない。男性が犯人だと断定してかかる。アリバイがあるかをたずねたところ、ずっと仕事場にひとりでいたという。男性の秘書がそれを証言した。隙を見つけて抜けだすことは可能だが、その証明はできない。また、男性そっくりの人物がいないことの証明もできない。また、男性の妻は男性の偽物と遊んだことを証言した。男性は言う。犯人を見つけてください。わたしにそっくりの人物がいるのです。警察は男性を逮捕できるだけの証拠をつかめなかった。かといってそっくりの人物も見当たらない。このまま迷宮入りかと思ったが、あるとき警察が妻に事情を聞いた。すると、妻は男性そっくりの人物が本当にいるのかどうか、男性に内緒で探偵に調査を依頼したという。そのときの新聞の切り抜きをとっていた。その切り抜きを警察が受けとる。事件のとき使われた新聞紙から切りぬかれたものだった。こうして事件は男性の犯行だと立証された。  最後まで男性がやったのか、そっくりな別人がいるのか、はらはらさせるいい話でした。おもしろかったです。
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