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 ある男性、空軍の貨物機に乗組員として勤めている。あるとき、貨物機が大量の遺体を運ぶことになった。箱に詰められた子どもの遺体で、宗教の集団自殺によるものだった。同乗者には現地に入った医療関係者がいた。気がすすまないフライトがはじまる。空を飛んでいると、医療関係者が箱から子どもの声がするといいだした。そんなはずがない。男性がそばによって確認する。子どもの声がする。男性は同僚にも確かめてもらった。同僚も聞こえるという。男性と同僚は機長には伝えないことにして、荷物を開けることにした。なかは悲惨だった。人間の形をとどめていない。蠅が飛んでいた。男性と同僚が箱を開けると、子どもの声は聞こえなくなった。ただの貨物に戻ったのだ。なにごともなかったですと医療関係者に伝える。子どもを外で遊ばせてやったのですかとそのひとは言った。  集団自殺で殺された子どもの遺体を運ぶ飛行機の話でした。異様な状況の話でした。
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