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 ある飛行士の断簡が発見された。飛行士の遺体は発見されず、断簡と機体だけが見つかった。その手記にはつぎのようなことが書かれていた。  わたしは特別な飛行機ではるか高い空を目指す。まだ見ぬ上空にはなにがあるのか、この目で確かめるのだ。わたしは飛行機に乗りこみ地上をはなれた。雲を抜けてさらに上を目指す。そこにはクラゲのような生物がただよっていた。へびのような生きものもいる。わたしはさらに上に行く。そこで凶暴な生物に出会った。飛行機めがけておそってくる。わたしは高度を下げた。いったん地上に降りる。燃料を補給して、ふたたび舞いあがる。あの生物のかけらでも手に入れることができれば地上の仲間に自慢できる。  手記はいったん途切れている。つぎに記されているのは書きなぐった言葉。  もうだめだ。やつら三匹に囲まれた。  飛行士の行方はいまも知れない。  ライト兄弟が初飛行をしてから十年後の小説だそうです。まだ空の上になにがあるかわからなかった時代なんでしょうね。
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