170

1/1
前へ
/284ページ
次へ

170

 ある男性、飛行機に乗る。飛行機は好きではない。仕事のためにしかたなく乗っている。かならず酔うし、墜落しないかと不安になる。ほかの乗客が眠っているなか、男性は起きている。カーテンを開けて窓の外を見た。つばさの上に影が見える。目を凝らす。ひとではないか。ひと型の化けものがこちらを見て笑っている。男性は乗務員を呼んだ。どうしましたか。男性が窓の外を指さす。そこにはなにもいない。消えていた。乗務員が不審な顔をする。いや、なんでもない。乗務員が帰っていく。たしかに見たのだ。男性がふたたび。つばさを見る。そいつはいた。エンジンの金属板をはがそうとしている。たいへんだ。このままではこの飛行機は落ちる。これ以上乗務員は呼べない。あいつらは男性を頭のおかしいやつと決めつけている。ひとりで解決するしかない。男性は荷物に入れておいた拳銃を取りだした。さいわい、男性の席のすぐ近くに非常用のドアがある。男性は体がほうり出されないようにベルトを体に巻きつけた。レバーを引いてドアを開ける。機内の空気が外に流れた。つばさの上に化けものはいる。狙いを定めて引き金を引く。三発目の発砲で命中。化けものは甲高い悲鳴を上げて後方へ消えた。男性の意識も限界だった。  男性が意識を取りもどす。周りの会話がおぼろげに聞こえる。なんだって、あんな手の込んだ方法で自殺しようとしたのだ。周りのやつらはなにもわかっていない。わたしが飛行機を救ったのだ。  幻覚を見た男性が飛行機の非常ドアを開ける話でした。まだ飛行機に銃が持ちこめる時代の話だそうです。そんな時代もあったのでしょうか。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加