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 ある女性、大阪行きのリニアに乗る。昔を思いだす。  女性が学生時代だったころ、大人のいうことに疑問を持っていた。友だちに貸したCDのケースのはしが欠けて帰ってきたとき、女性は友だちが許せなかった。それを母親や教師に相談すると、ささいなことだから許してあげなさいといわれた。大人になったいまなら理解できる。しかし、子どもだった女性にとって世界に味方はいなかった。そんなとき、ネットで大学生のバンドマンと知りあった。オリジナル曲の歌詞に共感した。直接やり取りをするようになり、学園祭で演奏をするというので行きたいと思った。だが、女性が住んでいた場所から大学生のいる大阪までは時間も金もかかる。中学生の子どもにとっては別世界のようなものだ。それでも唯一自分を理解してくれる大学生に会いに行きたかった。金をかき集め、親にはうそをついてなんとか新幹線に乗りこんだ。向こうにつく。大学生に出会えた感動で少女はすべてが報われた気がした。演奏がはじまる。その演奏の途中で少女は気づいてしまった。大学生には彼女がいる。女性とは遊びでしかない。急激に世界がしぼんだ。行きはあんなに待ちどおしかったのに、帰りははやかった。  そんな少女も大人になり、娘ができた。その娘が家出をした。警察に届け出ようとしたところで、義父母の家にいると連絡があった。女性は迎えに行く。娘は自分と同じだ。迎えに行った女性は、自分はあなたの味方だと伝えた。  子どもと大人の世界の話でした。  この話とはすこしずれますが、あるエッセイで「親バカというが親が子どもの味方をするのは当たり前である。子どもが万引きをしたら、「うちの子が悪いことをするわけがない。ひょっとしたら万引きというのはさぞかし世のなかのためになるにちがいない。自分もやってやろう」くらいでいいじゃないか」みたいなのを見かけました。さすがに冗談でしょうが、ここまで親が味方になってくれると心強いでしょうね。
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