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 ある男性、なにかとトラブルがつきまとう体質だ。金がないからと安アパートを借りたときもそうだった。アパートにひと気がない。大家にだれか住んでいるのかと聞くと、老紳士ひとりだけだという。男性は静かでいいやくらいに考えていた。ある晩、男性が帰宅してベッドに入っていると、となりの部屋から親子のいい争う声が聞こえた。父親と息子が金銭の話でもめているらしい。壁がうすいので会話の内容がとぎれとぎれだが聞こえる。男性は仕事で疲れて眠りたかった。しばらくして声が聞こえなくなったので、男性は今度隣人がさわいだら大家に文句をいおうと決意して寝た。それから数日はトラブルはなかった。しかし、またある夜のこと。男性が寝ようとしていると、ふたたび親子の声がする。この前より切羽詰まっているようだ。父親が息子に襲いかかった。壁にぶつかる音が男性の部屋にひびく。そして、静寂。父親が息子を殺したにちがいない。男性はあわててとなりの部屋を見にいった。とびらをこじ開けた男性が見たのは空の部屋だった。背後から声をかけられる。大家だった。男性は大家から事情を聞いた。以前にこの部屋で殺人事件があったらしい。父親が息子を金銭トラブルで殺すというものだ。先にいってくれと男性がいう。大家は呑気だった。なにも見ないひともいる。あんたも生きていたからいいじゃないか。あんたの前に入ったひとは霊のせいかは知らないが、部屋で冷たくなっていたんだ。これを聞いた男性は部屋を出ることにした。あんな部屋にいるくらいなら、雨に打たれていたほうがましだ。  借りた部屋のとなりで殺人事件が起きていた話でした。幽霊を見たことはありませんが、事故物件はこわいですね。
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