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 ある男性、まさにいま病院で妻を亡くす。医者が男性にいう。葬儀はどうしますか。勝手に燃やしてくれ。それはできません。だったら、病院に死体を寄付する。それをするには書類に署名してくれないと。書類の作成には時間がかかります。待っていてください。待つひまなんかない。おれは病院を出ていく。いや、この街を出ていく。妻が死んだのだ。妻の思い出が残っている場所にいたくない。いっさいを切りすてて生きていくのだ。男性は病院から出てバスに乗った。警備員が止めるのも聞かずにバスは発車する。医者に男性を止めろと依頼された警備員はしかたなく同じバスに乗った。書類に署名をしてほしいそうです。勝手にすればいい。妻とかかわるのはごめんだ。そういった男性は妻に勝ってもらったコートを脱いで、バスの窓から投げすてた。上着も靴も妻に選んでもらった。妻のない場所へ行くのだ。男性はなかばやけになり、バスの窓に頭を打ちつけた。ガラスが割れる。頭から血が出る。バスは止まり、男性は病院に運ばれた。妻の死んだ病院だ。そこで医者にいわれる。署名が必要なのですよ。男性が好きにすればいいだろうと署名を拒否する。それでも医者は男性に署名をさせるだろう。妻は死んだのだ。  妻が死んでショックを受ける男性の話でした。受けいれがたいできごとなのでしょうね。
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