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 ある秘書の男、主人にいわれてとある男性の屋敷へ契約書を持っていくことになる。その契約書は主人と男性の署名があり、男性は自分の署名を切りとりたいとのことだった。だが、主人は男性の目的は契約書を自分のものにすることではないかとにらんでいる。秘書は十分気をつけるよういわれて屋敷へ向かった。列車を乗りついで屋敷につく。使用人が秘書を出迎えた。長身細身のぶきみな雰囲気の使用人だ。なかに入って男性が来るまで待つようにいわれる。秘書は部屋にいたが、だれかに監視されている気がした。念のため秘書は本物そっくりの偽の契約書を持ってきた。だいぶ待ったのちに男性があらわれた。研究をしていて遅くなったと詫びる。しかし、秘書は男性がうそをついているのではないかという感じを受けた。てばやく用事をすませようと、契約書をわたし、署名の部分を切りとった。話をする男性をかわして帰ろうとする。だが、部屋の時計がいじられていた。もう最終列車には間に合わない。秘書はやむを得ず屋敷にとまることになる。男性が使用人について妙なことをいう。やつは真空に消える力がある。呼べばすぐに来るが、それ以外の時間はすがたを見せない。気味の悪いやつだ。そういう男性もこころよい人物ではなかった。男性の食事は一日一回、それも動物の生肉と決まっていた。生肉が見つからなかったときはペットの犬を食べたという。それを自慢げに披露するのだから正常な神経とは思えない。時刻は夜になる。秘書は寝室に案内された。そこでひと晩をすごす。男性も使用人も油断ならない。眠らずにすごそうと決めた。寝室にいてもだれかに見られている気がする。また、足音が部屋の前まで来ることもあった。気をつけていた秘書だが、眠気には勝てない。五分だけ寝ようと、ベッドに横になる。たちまちまぶたが落ちた。妙な気配に目を覚ます。寝室のドアが開いている。荷物をたしかめる。かばんがなくなっていた。契約書が入っていたかばんだ。だが、入っていたのは偽の契約書。本物は秘書が肌身はなさず持っている。部屋を見渡した秘書はさらなる異変に気づく。飾ってある肖像画の目が動いている。視線の正体はそれだった。秘書は肖像画を破りその奥に隠れていた人物をつかまえた。屋敷の使用人だった。そこへ男性が入ってくる。お前の真空はそこにあったのか。ふたりが争うなか、秘書は逃げだす。逃げる秘書に気づいたふたりが追ってくる。秘書は追跡をかわして、ぶじに主人のもとへ帰りついた。この働きで秘書は昇給し、主人からの信頼も厚くなった。  不気味な屋敷で任務をこなす秘書の話でした。夜のシーンが緊張感があっておもしろかったです。
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