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 男たちが世間話をしている。あたりさわりのない話題がつづいていたが、ひとりの画家が最近起きた火事の話題を切りだした。数か所の森林が同時に燃えたものだ。画家以外の男は乾燥しているからとかだれかが火をつけたのではないかとかありきたりな理由を口にした。しかし、画家はちがった。この世界は太陽に照らされている。その熱が特定の場所に集まってあのような現象が起こったのではないかと、超常現象的な推理をした。あまりにも熱心に画家がその説を推すので、男たちはあきれた。夢中で話していた画家が自分の話に興味を持たれていないと気づく。すこし休んでくると、席を外した。しばらくして男たちのひとりが画家の様子を見にいく。画家はいなかった。外に出たらしい。  火事の現場にやってきた画家は自分の仮説が正しいことをたしかめるために、熱を感じとろうとした。はるか太陽からの熱は地中にもぐっていくのだろうか。それを地面が妨害する。水は渇き、草木は枯れる。それでも熱は止まらない。妄想する画家は炎のすがたを見た。宙を自由に飛んでいる。やはりわたしの仮説は正しかったのだ。画家はこの感動を絵に描こうとした。だが、この直後画家は原因不明の熱病で息を引きとった。画家がなにを見たのか、だれにもわからない。  明確なあらすじがある話というよりは詩的な感じの小説でした。詩的な文章を要約するのはむずかしいです。
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