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 わたしはその家の家庭教師をしていた。その家の庭には草木のいっさい生えない一角があって、その家の子どもがその場所を気にいっていた。なにもない場所で得体のしれないものと遊ぶのだから親としてはいい気分ではなかったのだろう。親はその一角を立ちいり禁止にした。それでも子どもはその場所のことが気になるらしく、わたしにあの場所は欲しがっているんだ。どうやったらあの場所がよろこぶのかぼくは知っているんだというのだった。そんな家にあるとき叔父がやってきた。資産家で成功していた。叔父の財産はこの家にとって重要なものらしい。その叔父だが他人の力を吸いとる能力を持っていた。本人は知らないだろうが、叔父は周りの人間から力を吸って成功を収めたのだ。その叔父にとって不毛の一角は天敵だった。あの草も生えない土地もほかのものから力をうばう能力があるのだ。だが、それを知らない叔父は不幸にもその一角に足を踏みいれた。いままで吸収してきたすべてを叔父は吐きだした。見た目には貧血で倒れたように見えただろう。わたしにはわかった。その後、叔父のうわさを耳にしたことはない。この世界から消えてしまったみたいだ。その代わりに庭の一角には青々とした草が生えだした。  土地に力を吸いとられる話でした。ふしぎなテイストの小説ですね。
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