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 ある男性、船に乗って遠い異国に来た。藩の役人を殺し、逃げてきたのだ。この国なら藩の人間どころか、同じ国の人間もいないだろう。そう思いながら船を降りた。その男性に、話しかけてくる老人があった。老人は男性と同じ言葉を話す。数十年ぶりに同じ国のひとに出会ったと泣きつく老人を男性は無視できなかった。老人の家までついていく。家に着くなり男性は船の長旅で疲れて眠ってしまった。はっと目を覚ますと、体を縛られている。老人は言う。わたしの話を聞いてくれれば解放する。男性の抗議も聞かずに老人は語りだした。  老人は子どものころ、両親を殺されて、兄弟とともに人身売買にかけられた。兄弟は別々に売られたため、兄弟はばらばらになった。老人はほかの子どもとともに牢屋ですごした。環境は劣悪で亡くなる子どもはすくなくない。牢屋で数年すごすと、外に出されて道を延々と歩かされた。列についていけない子どもは道ばたに捨てられた。目的地まで着くと、老人は外国人に売られた。船に詰めこまれ、外国へ向かう。船旅に耐えられなかった子どもは海に捨てられた。こうして到着した土地で老人は兄と思わぬ再会をした。兄は外国人の付き人になって上客として同じ船に乗っていたのだ。老人は兄に助けを求めたが、かなわなかった。ふたりはふたたび別れる。老人は何十年もその土地で勤めた末、兄の行方を追ってこの国へ来た。しかし、兄は見つからなかった。老人が話しおわる。それと同時に老人の家にほかの人間の気配を感じる。老人とは別の声が話しだす。話が終わるまで男性は解放されない。それはとてつもなく遠い未来のことだろう。  こういう人生が振りまわされる話は好きです。どうしようもないままあちこちを転々とするのがおもしろいです。
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