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 ある女性、本をもって目的の住宅をおとずれる。本は格好だけで半分も読んでいない。田舎から都会に出てきて、いまは社長秘書をしている。目的の場所へ着くと、女性はその住宅と自分の住んでいる家を見比べた。自分の家のほうが上等だ。満足した女性は家へ向かう。玄関に張り紙がしてあった。用事があって遅れる。勝手に部屋のなかを見ていてくれ。とのことだ。女性は家主のいない部屋に入る。ここの家主が引っ越すことになったのでよい家具があれば買いとろうとやってきた。部屋のなかに入る。眺めを確認するが、あまりよくない。部屋も散らかっていて家具もたいしたものはなさそうだ。そこへ電話がかかってきた。家主の夫だった。妻はいるかと聞かれる。いないと答える。女性はふたりについて聞いた。画家と舞踏家の夫婦らしい。ただ、ふたりとも名が売れているわけではない。夫は妻が帰ったら連絡するよう伝えてくれといって電話を切った。そこへ男性がやってくる。女性と同じようにこの部屋の家具を物色しに来たらしい。男性が女性をこの部屋の主と勘ちがいした。女性はそのまま演技をつづけることにした。男性がいう。あまりいい家具はないようですね。ええ、そのようですね。男性はなにも買わずに帰っていった。女性もとくにほしいものはない。家主が帰ってくる気配もないし、部屋をあとにする。貼り紙に書き足しておく。よい家具はありませんでした。夫が連絡を待っているそうです。女性は本を抱えて自宅へ帰る。  自分と他人を比べる女性を描いた作品です。人間の悲しいさがですね。
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