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 若い女性が老人ホームで働いている。仕事の経験は浅いが、最近やっと慣れてきた。女性はひとりの老婆を担当していた。足腰が弱って車いす生活を余儀なくされている。その老婆は珊瑚のブローチをつけている。昔の恋人にもらったものらしい。思い入れがあるようなのでその恋について聞ければ症状の回復につながるかもしれないのだが、そううまくいくものでもない。そんなある日、女性が老婆を車いすに乗せて近くの公園へ行った。女性が帰ってくると、ブローチに関する新情報を手に入れたとホーム長に報告した。老婆の恋の相手は書道家として有名な老人であった。その老人に会えないかと、女性は直接頼みに行く。書道家の老人は男らしさを保っていた。女性の話を聞き、それなら会おうという話になった。女性は老婆を連れて老人の家へ行く。書道家の家は海沿いに立っていた。崖が迫っており、舌は岩と海だ。老婆と書道家は何度かデートをくり返す。もちろん老婆は車いすでたずねる。そのうちに女性の服装が派手になっていったことに気づく職員はいなかった。女性は老婆の乗った車いすを家の外に置いて、書道家と家に入る。なんと女性と書道家は体の関係を持つようになっていた。女性が聞く。例のものは書いてくれたのかしら。書道家は封筒を差しだす。書道家が亡くなったら財産を女性に渡すと書かれた遺言状だ。遊び半分で書かれたものだが、その半面法的な効力もあった。書道家はいままでの人生で何十人もの女性と遊んできた。来週には別の女性に遺言状を書いていてもおかしくない。老婆はひとり、外で待つ。正しく状況を判断することもできないのだろう。  こうしたなか、老婆と書道家の最後のデートの日になった。最後なのでふたりの写真を撮ることになった。女性が送迎の車までカメラを取りに行く。崖の上には車いすに座った老婆と、書道家の老人。老婆が珊瑚のブローチを海へ向かって投げた。書道家は思わずそのブローチを追いかける。崖をのぞいた。そのとき、背後から力がかかった。書道家が崖から落ちる。老婆にとってブローチはいい思い出ではなかった。子どもができたといったとき、書道家に捨てられた証だ。その子どもは生後数か月で病死した。ずっと復讐を考えていたのだ。  書道家の死からひと月。老婆は以前より元気になった。真夜中に女性がほかの職員の目を忍んで老婆の部屋をおとずれる。うまくいきましたね。女性がいう。書道家の遺言状によって莫大な遺産を手にしている。老婆は立って女性を迎えた。歩けるのだ。復讐のため認知症のふりも、足が不自由なふりもした。そのおかげで目的は達成できた。すべては女性とふたりきりで公園へ行ったときからはじまっていたのだった。  ずいぶんあらすじが長くなりました。話が二転三転する話です。女性の計らいで老婆と昔の恋の相手が出会う。その恋の相手と女性が関係をもって、遺言状を書くまでになる。老婆の思い出はよいものではなく悪いものだった。恋の相手に復讐を果たす。女性が関係を持っていたのは遺産を奪いとるためだった。はじめから老婆と女性は共謀していた。という話です。
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