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 知りあいから手紙が届く。こんな内容。  最近亡くなった元警察官の先輩がいるのだが、彼についての奇妙な話がある。台風が近づいている夜のことだった。その先輩――すでに退職していた――がわたしのいる交番へやってきていきなり昔ばなしをはじめた。こんな昔ばなし。  わたしが警察官として働いていたとき、ひとりの老人が話にやってきた。半年前に拾った財布についての話だ。その財布の落とし主は若い女性だった。商店街を歩いているときに、その女性が財布を落とすのを見かけた。老人は言った。わたしははじめからあの女性を見ていたのかもしれない。だが、わたしにそういう趣味はないはずだ。しかし、女性の印象はあまりに鮮烈だった。財布を交番に届けたあと、家に帰り、日記に書いた。カワイイ、アナタ。自分でもぞっとする。どうしてだか、わからない。そうせずにはいられなかったのだ。頭のなかにはあの女性のすがたがありありと浮かぶ。時間がたってもその女性は消えなかった。それどころか、老人の頭のなかで髪を長くしたり、スカートを短くしたり、つねに理想のすがたを見せていた。そんなある日、老人はその女性と再会する。老人は女性のうしろすがたを見つめる。声をかけることはできない。そういえば以前にもこんな体験をしたと思いだす。まだ、老人が若いころ、旅館の従業員の財布を拾った。そのときも声をかけられず、交番に財布を届けた。老人は女性のことをさらに思うようになった。頭のなかの女性に似合うまっ赤なハイヒールを買った。家族にばれるわけにはいかない。引き出しの奥にしまってある。こんなわたしはおかしいでしょうか。老人は話しおえると帰っていった。老人のことを調べたが、偽名を使っていたようで正体がわからない。  先輩の話がこれだ。その亡くなった先輩の自宅から赤いハイヒールが出てきたらしい。老人の話は先輩の実体験だったのだろうか。それとも本当に狂った男がいたのだろうか。きみはどう思う。  入れ子構造のむだが多いなと思ったので調べてみました。とある長編シリーズに関係する短編というかファンサービス的な話だったようです。その長編を読んでいる前提の話のようですね。この話単体で読むと気持ち悪い男がいたものだくらいの感想になりますが、長編を読んだひとにはちがう風に読めるらしいです。
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