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 ある男性、一番昔の記憶は母親との記憶である。ぐずっていた男性に母親が折り紙で動物を作ってくれた。それに母親が息を吹きこむと、紙でできた動物たちが本物のように動きだした。その日以来、母親はさまざまな動物を折ってくれた。  男性の母親はカタログで外国人である父親に選ばれて結婚した。それなりの事情があったのだろう。母親は父親の国へ移った。  男性は父親の国で生まれて父親の国で育っているので、いま住んでいる場所になじんでいる。母親の故郷は知らない。母親が話す言葉もわからない。男性が子どもでなくなり、学校へ行くようになってから母親との会話は減った。異物のように思えた。子どものころ作ってもらった紙の動物もいまでは部屋の奥でほこりをかぶっている。  男性が成人したころ、母親が病気になった。見つかったときには病が進行してもう助からなかった。しかし、男性はだいじな試験を控えていた。母親に悪いとは思いながらもいつまでもつきそっているわけにはいかない。男性が飛行機に乗っているときに母親は死んだ。  母親が死んでから、男性は紙の動物の裏に文字が書かれているのに気がついた。男性には読めない母親の母国の文字で書かれていた。それを読めるひとに読んでもらう。母親の生い立ちと男性に対する思いが書かれていた。はじめて異国へ来た母親の思いを知った。男性は昔のように折り紙をきれいに折りなおした。よみがえった紙の動物は昔のように動きだす。  ひとり異国に来た母親とその子どもである男性の話でした。わりと王道な話な気がします。おさないころは純粋に受けいれていた母親が、成長するにつれて距離がはなれていき、亡くなったことで母親の思いを知るという展開ですかね。そこにプラスアルファして言葉がちがうとか母親の境遇とかがある話でした。
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