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 ある山岳に小さな村がある。その村には縄を結んでものごとを記録しておく文化があった。その村の住人は山の下の文化には触れず、閉鎖的な生活を送っていた。しかし、ここ数年、米のできが悪い。山の下との唯一の接点である商人のいうことには気候がおかしくなっているらしい。そう言われても村の住人にはピンとこない。そんななか、村に外国の研究者がおとずれた。縄を結ぶ技術を遺伝子の研究に生かしたいらしい。研究に協力してくれれば、育ちの良い米をくれると交換条件を出してきた。これには応じるしかない。米がなくなれば飢えるしかないからだ。村で一番のものしりが研究者に連れられて外国へ旅立った。村人が持つ縄を結ぶ技術は遺伝子の研究を進歩させた。役目を果たした村人は村へ帰った。そして、条件どおりにできの良い米をもらった。しかし、それからは村人の予想どおりにはならなかった。もらった米は一度しか使えない。毎年研究者の知りあいの商人から購入しなければならないことがわかった。だまされたのだろう。村人はこの体験を縄を結んで記録した。もっとも、この記録が生かされることはないかもしれない。  いいように利用された話でした。現実的でおもしろいアイデアでした。
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