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 ある男性、突堤で水上スキーをしている女性を眺めている。女性は猛スピードで突堤へ突っこむ。これは避けられない。ぶつかったら死だ。ところが女性は寸前で華麗に衝突を避ける。男性は女性から目がはなせなくなっていた。浜辺へ戻り、店の店主に聞く。あれはだれだと。理解できない女だと答えが返ってくる。もとはどこかの国の金持ちの娘だった。それが家を逃げだし、カジノで大金を手にしたり、絵を描いたり、ときにはスタントの仕事をして生きている。並の人間には理解できない思考をしている。その夜、男性は女性を誘おうと思った。ふたりきりで夜の海へ出かける。女性は真っ暗な海へ飛びこむ。男性があわててついていく。女性ははやい。追いすがるのが精いっぱいだ。岸からどんどんはなれていく。命の危険が迫る。もう引きかえそうとしたとき、女性が帰ってきた。助かった。まだ男性は女性に愛想をつかされていない。だが、つぎの晩、また女性が夜の海に誘ってきた。もう体が持たない。無謀すぎる。男性が断ると、女性はいらだちながらひとりで海へ向かった。  翌朝、女性が消えたことを知る。捜索しているが、見つからない。女性は勇気のある人物だったのではない。死を求めていたのだ。  死んではじめて、ああ、自分は生きていたんだとわかる。そんなこともあるのかもしれません。
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