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 ある男性、すばらしい詩を書くことに成功する。妻とともに詩の完成をよろこぶ。男性の詩は現実をそのまま切りとったかのような出来だった。詩を読んでいるとその世界に入りこむ。しかし、それが幻覚ではないことに気がついた。男性の詩は現実世界を切りとってしまうのだ。花を書けば花が消え、谷を書けば谷が消える。男性の詩は世界中で話題になった。夫婦以外は現実が切りとられていることは知らない。男性はなおも詩を書きつづける。鳥を書き、動物を書いた。老人も書いたし、子どもも書いた。このままではすべてが詩に消えてしまう。妻が男性にどうするのか迫る。男性は妻と自分を詩に書いた。ふたりは楽園で暮らしたと。  男性と連絡が取れなくなったので、知りあいが男性の家をたずねた。そこには岩以外なにも残っていなかった。夫婦の行方はつかめない。ふたりは永遠に詩のなかで暮らしている。  詩に書くと現実世界のものが消えてしまう話でした。最後には自分と妻を楽園に閉じこめて終わりです。しあわせだったのか、悩むところですね。
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