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 ある男性、友人の葬儀に行った帰りの夜道で声をかけられる。そいつは殺し屋だと名乗り、男性が友人を殺すように依頼したと言ってきた。当然、そんな覚えはない。しかし、殺し屋はあなたに依頼されたのはまちがいない。あなたはあの友人がじゃまだったのでしょうという。たしかに友人がいなくなれば男性は昇進するだろう。ライバルだったのだ。殺し屋は畳みかける。依頼料を払ってもらわなくてはこちらとしても警察に届けるしかない。そろそろ殺し屋にも嫌気がさしたところだ。罪を償って死ぬのもいいだろう。しかし、あなたにはよくないうわさがつきまとうでしょうな。男性、しかたなく金を払うことにした。さいわい、月々数万円を支払うだけでいいらしい。この夜はそれで納得した。  それから数か月殺し屋にたかられる。だんだんと不満が募る。あいつをなきものにしてやろうか。そんなとき飲み屋でとなりの男に話しかけられた。よくない殺し屋につかまりましたね。その男も殺し屋をしているという。だが、あれは依頼人をゆするたちの悪いやつだ。同業者としても迷惑しているのです。どうです。わたしに依頼しませんか。あいつの件なら数万円で請け負いましょう。男性は、それならばと男に金を支払う。それ以来、あの殺し屋はあらわれなかった。  とある居酒屋でふたりの男が話している。ひとりの男がいう。殺し屋を装って金を巻きあげるのは簡単なものだ。男性をゆすっていたやつである。だが、引き際を見きわめなければいけない。うっかり反撃されてはたまったものではないからな。先日もひとりの男性から手を引いた。もうひとりの男が聞く。未亡人の女性はどうなんです。あれももう一年になる。そろそろ引く時期だ。なるほど。もうひとりの男は心のなかで笑う。未亡人に話を持ちかければまた儲かるわけだ。  殺し屋を名乗る男が男性をだまして、その手口に便乗したやつがさらにだますという話でした。
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