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 寒冷地で生活をしている先住民がいる。一族のおきてとして歳をとったものは捨ておかれることになっていた。ある老人にその日が来る。老人ひとりを残して息子も孫もいってしまった。残されたのはわずかな薪だけ。この薪が尽きたら冷気が老人をあの世に連れていく。老人は過去を思いだす。子どものころ、ある草食動物が肉食獣に追われていたのを目撃した。老人は子どものころの友人とともにあとをつけた。逃げる草食動物を肉食獣が容赦なく追いつめる。精いっぱい逃げるが、やがて追いこまれて命を絶たれてしまう。それが老人一族の暮らしている世界なのだ。このときの友人だって、氷の裂け目に落ちてはやくに命を落とした。薪がすくなくなっていく。老人は周囲の異変に気がついた。動物の気配がする。肉食獣だろう。老人は覚悟を決めている。生きるとはこういうことだ。  きびしい自然界を生きる一族の老人の話でした。あらすじでは伝わりませんが、描写がうつくしかったです。
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