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苦手な人。
構内にあるコンビニは人でごった返す駅のホームに似ていた。
出る人と入る人が忙しく行き交い、目的である食料の棚に辿り着くのも一苦労だった。
少し遅めだったからか、お弁当類は軒並み売り切れ、残っているのはサラダや量の割に割高なサンドイッチばかりだ。
しかし、迷っていてはカップラーメンに落ち着く事になる。何でもいいから手に取って、レジを待つ列に並んだ。
暫く待って、漸く回って来た順番にレタスとハムを挟んだサンドイッチとカレーパンをカウンターに置いた。
「いらっしゃい」と口にしたバイトの店員は手早くバーコードを拾う。
コーヒーと言い終わる前にレジは済んでしまい「548円になります」と言って背中を向けた。
カウンターに出て来たのはホット用の紙コップだった。欲しかったのはアイスコーヒーなのに。
せめて注文する時にアイスコーヒーと言えば、最後まで言えなくても分かってもらえたのだろうが、別にホットでも飲めるから訂正はしないし、出来ない。
さっさとお金を払おうと、財布の中を探っていると、肩の横からニュッと出て来た腕にビクッと肩をあげた。
手の先には1000円がヒラヒラしている。
程よく筋肉が付き、ムダ毛の気配も無い白くすべすべした腕の持ち主は知っていた。
慌てて振り返ると、丁寧にアレンジを施したお洒落な髪型をしている綺麗な顔の男が悠然と微笑んでいる。
「出た」っというのが1番の感想なのだが、コンビニの店員は誰がお金を支払おうが関係ないのだ。当たり前に札を受け取り精算を済まそうとする。
「いや、あのお金は俺が払います」
「452円のお返しです」
昼時を迎えたコンビニの店員は忙しいのだろう、聞いちゃいない。
止める間も無くレジスターからチャリンと吐き出された小銭がトレーに乗って押し出された。
「いや、あの…」
「ああ、コーヒーはアイスにするからホットのカップはいらない、そうだよね?」
「そうですけど、いや…ちょっと…」
お金を払ってもらう義理など無いし、この綺麗な男とは友達ですら無いのだ。しかし何故か我が物顔の彼はトレーに乗ったお釣りを手早く回収してからサンドイッチとカレーパンを摘み上げた。そしてレジカウンターの正面にある冷凍庫から氷の入ったアイスコーヒー用のカップを取り出し、ペリペリと蓋を剥いている。
人の話を聞く気は皆無らしい。
「お金は俺が払います」
「午後の講義は?出る?」
「出ますけど…これ、細かいのが無いから550円でいいですか?」
自分で払えば548円で済んだのに…と、理不尽を抱えながらも小銭を揃えて差し出したのに見てもくれない、彼はコーヒーのサーバーに氷の入ったカップをサーバーにセットしてドリップのボタンを押した。
「あの、お金を…」
「今日は水曜だから午後1は飛んで2時からだろ?お昼はゆっくり出来るから噴水のテラスに行く?」
彼とは学部も学年も違うのにどうしてひとコマ空いていると知っているのだ。
「行きません」
「そうだね、まだ外は暑いからテラスは嫌だよね、じゃあ冷房があった方がいいかな?」
「そうじゃなくて…」
「サロンでもいい?」
全く…溜息しか出てこない。
そんな行き違いの激しい会話をしているうちに、ブスブスと湯気を上げたコーヒーのドリップが出来上がり、蓋を閉めてストローが刺さった。
そしてサンドイッチとカレーパン、出来上がったアイスコーヒーを持った彼はさっさと店を出て行った。
「……別について行かなくていいよな」
サンドイッチとカレーパンとアイスコーヒーは彼が買ったのだ。
噴水テラスで、とかサロンで、などと一緒に食べるような風味を出していたが、本当に、全く、親しい関係では無いのだ。
行ってしまう彼を放っておいて昼飯を買い直そうとコンビニに戻ろうとしたら、Tシャツの襟がグイッと引かれた。
「そっちじゃ無いでしょ」
「いや、あのですね…」
「ほら、早くしないとアイスコーヒーの氷が溶けてしまうだろう」
「ね?」っと爽やかに微笑まれても困るだけだ。
その甘い顔は物欲しそうに手を振ってくる数多の女子達に注いで欲しいと熱望する。
これはもう既に、絡まれている言っていいのだが、「さあ行こう」と肩を抱き込まれて逃げる事が出来なくなった。
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