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そして、次に聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「あいつももう少し美人だったら顔写真出して女子高生漫画家として売り出せたのにな」
ーーえ?
何を言われているのかすぐには理解できなかった。
だけど、さっき出てきたのは自分の名前で。という事は、今話されているのも間違いなく自分の事。
「ひっで!」
「お子様のお守り、大変なんだぞ? せめてもうちょい美人だったらって思うだろ」
「だったらホストみたいな営業やめればいいじゃんか。何人にあれやってんだよ」
西川さんじゃないもう一つの声は呆れたように言ってはいるものの、どこか面白がっている。
「ばーか、少女漫画家なんて夢見てる奴が多いんだからああしとけば文句言わずに描くんだよ。俺の担当で原稿料上げろとか言ってきた奴いないだろ?」
「そうだけどよー」
「その分俺のボーナスにつけて欲しいわ、功労賞もんだろ」
もう一つの声の主は、再び「ひっで!」なんて笑った。
「さーて、そろそろ来るだろうからスタンバイしとくか。煙草の臭いも消さなきゃなんねえし。あー、めんどくせ!」
「愛川エレナのために?」
「そ。夢を壊さないために努力してやってるの。今日もあの古臭い絵と話を褒めないとな」
「お前なあ」
「だってあれ、マジで恋愛経験とかないぞ。話も面白くねえしキャラクターだってこんな奴いねえよって感じだし、何とか載せられるくらいまで持っててるの、感謝してほしいくらいだわ!」
西川さんの言葉が終わる前に目の前の喫煙ルームと書かれた扉が開いた。
逃げたいのに足は地面に貼り付けられたように動かなくて、出てきた西川さんと目が合ってしまった。
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