三、

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「本当に大丈夫です。ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありません」 「迷惑だなんてそんな! 榎野さんがいなかったら俺、デビューなんてできなかったんですから!」 「そんな事ないですよ、夏樹先生なら絶対デビューしました」  微笑みを作って、話を戻そうと原稿を再び手に取った。だけど、夏樹先生は違うらしい。 「そうだ! 今度スパ行きません⁉︎ ほら、少し前に話題になった水道橋の! 中にマッサージとか岩盤浴とか色々あるみたいですよ?」  満面の笑みで名案とばかりに大きく手を叩いてみせる。音に驚いた近くのウエイターが振り返ったけれど、夏樹先生の人好きのする顔に問題なしと判断されたらしい。小さな会釈の後、すぐに向こうに行ってしまった。  それが夏樹先生らしくて、本当に笑いが込み上げてきた。 「そんなものは経費で落ちません!」 「俺が払いますって! で、美味しいもの食べて帰りましょうよ! この前きくのすけ先生に美味しいしゃぶしゃぶの店を聞いたんです!」 「そういうのは可愛い彼女と行くものですよ」  こんな軽口もいつもの事。 「だからそんなのいないし、俺本気だって言ってるじゃないですか」 「連載に影響しない程度にぜひいい恋愛をしてください」  何度となくしてきた掛け合いに気持ちが落ち着いてきた。 「なら榎野さんが俺と恋愛してくださいよ!」 「はいはい。お世辞はいいですから、打ち合わせに戻りましょう」  諭すように言えば、夏樹先生は拗ねたように唇を尖らせた。  
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