三、

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「へえ、すごいなあ。先生達にそんなに支持されるなんてどんな物を用意してるんですか?」 「色々だよな。忙しくても摘めるつまみやら、湯だけで作れるお吸い物やら。あ、この前のミハ丸先生への出産祝いありがとな、奥さんが大喜びだったって先生が礼言ってたぞ」 「流石女性ならではの気遣いですね。ぜひ教えてください。榎野さんにも部署の事や仕事なんかを教わりたいです」  ニコニコ。もしこれが漫画だったらそんな擬音が西川さんの隣に描かれるだろう。これが演技だったら驚いてしまうだろう程に何の他意も感じられなくて、より一層不気味に感じてしまう。 「ええ……時間が合えばいつでも……」  顔が強張るのを感じながら、それだけを返すので精一杯だった。  社交辞令で終わるかと思いきや、西川さんの好意的な言動は続いた。コピー用紙の補充をしようとすれば持ってくれようとするし、ホワイトボードに予定を書き込めば字を褒めてくれる。手が空いて部に残っている人の昼食のお使いを買って出れば、「俺も行きますよ」なんてついて来ようとする。  編集長や班長達がいる場ならアピールかと思うけど、誰もいないところでも変わらない。目的がわからない。 「いえ、これくらいいつもやってますから」 「一人で大丈夫ですよ」 「西川さんは休んでいてください。午後また外でしょう?」  お決まりになった断り文句を使い続ける事しかできなかった。
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